12-5. 次世代シークエンサー:NGS
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次世代シークエンサー(NGS: next generation sequence)
2005年頃から市場に投入され始めた新しい原理に基づく超高速シークエンサー
電気泳動による分離・解析は行わず、膨大な数の試料を同時並行解析し、生データを連結させて配列データ化する
様々な原理に基づく機種が市販されている
プラットホーム
機械が採用している試料調製から配列解読までのシステム
1回の運転での解読総塩基数が数千万~数千億に及ぶきわめてパフォーマンスの高い装置で、塩基配列解析における革命的な機械といえる
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【A】第二世代シークエンサー
膨大な数のDNAをPCR増幅した後でジオデキシ法とは異なる酵素反応を行い、個々の反応で生じたシグナルを検出していくが、多くの場合は反応により生ずる蛍光あるいは発光を検出する
リード長(リード: 単一反応で解読される配列)はさほど長くはないが、膨大な数のDNAを同時並行解析するため、リード数はきわめて多い
1) PCR増幅と均一DNA集団の形成
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まず、DNAの両末端に特異的アダプター配列を付けてPCRを行う
一つの方法は、アダプター付きビーズとDNAを微細な油水エマルジョン内に入れ、そこでエマルジョンPCRを行って膨大な数の特定DNAをビーズに付け、次に個々のビーズを反応液の入った微細な孔(ピコタイタープレート)に入れて反応させる
もう1つの代表的な方法はブリッジPCRで、アダプターが結合しているフローセル(液を流せる微細な容器)基盤にDNAをアニールさせてPCRを行う方法で、変性操作時にPCR産物が隣接するアダプターにブリッジ状となって結合し、そこでさらにDNAが増幅する
この操作の連続により特定のPCR産物が1ヶ所に集団(クラスター)として存在するようになる
このような集団が膨大な数形成されるので、あとは反応液を流しながら反応を進める
いずれの場合も、各PCR産物集団のシークエンス反応で生じた特定位置での蛍光/発光を、反応に沿って検出することにより配列情報が得られる
2) 反応系
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一塩基合成法(SBS法(sequencing by synthesis)、合成法)
典型的な可逆的ターミネーター法で、DNA合成反応の基質として、リボースの3’位にアリル化合物が付いたもの(加えて塩基特異的蛍光物質もアリル基を介して塩基に結合している)を用いる
DNA合成反応が起こると、特異的蛍光が検出されるので取り込まれた塩基がわかるが、DNA伸長反応はいったん止まる
そこでアリル基を切り離し、DNA伸長反応を阻害していた置換基や蛍光物質を外すことによって、DNA合成反応を再スタートさせる
基質を順番に変えながら上記の反応を繰り返す
パイロシークエンシング法(ピロシークエンシング法)
DNA合成に伴って基質から放出されるピロリン酸を検出する
ATPスルフリラーゼによってピロリン酸とアデノシン5'-ホスホリン酸からATPを合成し、そのATPをルシフェラーゼによる発光に利用する
残った基質やATPは酵素分解や洗浄で除き、順番を変えながら基質を作用させて発光をモニターする
dATPがルシフェラーゼに利用されるので、アデニン用の基質はdATPαSを使用する
memo: イオンプラットホーム
パイロシークエンシングのような反応を行わせるが、DNA合成の基質取り込み反応で副産物として生ずる水素イオンによるpH変化をイオンセンサーを使ってモニターする
同じ塩基が2個続いた場合はシグナル強度が2倍になる
検出法がシンプルなために解析は迅速で普通の基質が使え、かつ大がかりな光学系が不要なため、装置はコンパクトで解析も安価である
e.g. このような非光化学系シグナル検出システムをもつものを第四世代シークエンサーと分類している書籍もある
リガーゼシークエンシング法(SOLiD法)
DNAリガーゼを使い、蛍光色素をもつオリゴヌクレオチドをプライマーに連結させ、蛍光を検出する
【B】新しいタイプのNGS
1) 第三世代シークエンサー
NGSでPCR増幅しない試料を使った1分子反応を基本とし、そこでのDNA合成の酵素反応をリアルタイムでモニターする1分子リアルタイムシークエンサー
このシステムではDNAではなく、DNAではなく、DNAポリメラーゼを微小反応槽の底に固定し、微小環境内で発生する蛍光を検出する
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蛍光色素はリン酸基に結合しているため伸長反応と同時に外れる
リード長が非常に長く、PCRによる変異などのバイアスも入らないことが特徴
膨大な数の反応槽をもつ反応ツールを装置に多数セットできるので、一度の運転で膨大な数の塩基が解読できる
memo: DNA分解に基づくNGS
エキソヌクレアーゼを固定した微細な孔(ナノポア)にDNA1分子を捕捉させて塩基を遊離させ、遊離した塩基が孔を通過するときのイオン電流を計測する新しいタイプのプラットホームがある
2) 第四世代シークエンサー
まだ開発段階だが、酵素反応をすることなく、1分子のDNAを物理的な方法のみでシークエンシングする装置
一本鎖DNAが微細な穴を通るときに発生する塩基特異的な電荷、イオン、表面温度などを計測することにより塩基配列を解読する
RNAの直接解読も可能と考えられる
【C】NGSを使う
1) NGSを使用するまでの操作フロー:ライブラリー作製
まずほしいDNA試料を調製するが、この操作は目的により多様
目的によっては単純なDNA試料ではなく、修飾されたDNAやタンパク質結合DNA、あるいはcDNA合成用のRNAなどをそれぞれの方法に従って準備する
次に目的や対象試料、使用シークエンサーに適したDNAの断片化とその精製を行い、回収試料にアダプターを連結するが、必要に応じて解析に適したサイズの断片を濃縮し、DNAの集団(これをライブラリーという)を調製する
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2) NGSの応用
NGSはかつて何年もかかったヒトゲノム解読を数日~2週間(以内)に短縮し、遺伝子発現解析では切れ味の悪かったDNAマイクロアレイ解析に取って代わるなど、膨大な労力を要する核酸の同定や分析に使われている
NGSの応用例は大まかに次の3つ
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ゲノム塩基配列の解析
DNAシークエンサーの基本的な使用目的はゲノム塩基配列解析であるが、NGSは新規生物の全ゲノム解析(de novoシークエンシング)で特に能力を発揮する
ゲノム配列既知で参照ゲノム配列がある生物では目的により必要部分に絞っての解析が行われるが、この一例としてエキソン部分をカバーするエキソーム解析があり、病気の診断などに利用される
自然界にある不特定多数の細菌を単離しないで直接ゲノム解析するメタゲノム解析でもNGSがヒト腸内細菌叢や環境細菌叢の解析で力を発揮する
この場合は細菌間で保存性の高い16S rRNAを指標にする16S解析が一般的にある
遺伝子発現解析
RNA-Seq
RNAを網羅的に解析するトランスクリプトミクスでRNAから合成されたcDNAの解析にNGSを使うアプローチ
RNAの同定や定量のほか、スプライシングパターンや転写開始部位の決定に用いられる
RNA-Seqではアレイ解析ではできない塩基レベルの確認ができるが、アレイが利用できない新規生物ではNGSが唯一の解析手段となる
転写物のコピー数定量を主目的とする場合は、RNAの末端を解析するデジタル遺伝子発現解析が行われる
さらにごく微量しか存在しないRNAの解析や、翻訳に関連したRNAの解析などでもNGSが使われる
クロマチン解析・エピゲノム解析
クロマチン構造やその修飾状態の解析は遺伝子発現機構解析の重要なアプローチ
転写制御因子やヒストン(修飾されているものも含め)が結合しているDNA部位を網羅的に同定するため、現在はNGSを使うChIP-Seqが主流になっている
さらにクロマチンからDNA断片をどのような方法で濃縮するかにより、クロマチン高次構造(ヌクレオソーム状態やオープンクロマチン状態など)の網羅的解析も可能であり、またメチル化DNA領域の解析でもNGSののは力を発揮する